お地蔵さんと蓮の花

 私の妻が若年性アルツハイマー病と診断されたのは2014年3月でした。当初妻はそれを家族に隠しており,私が知ったのは2014年4月でした。アルツハイマー病の診断が出る前は,うつ病の診断が出ていたそうです。元々家事がそれほど得意ではなかった妻ですが,年を経るにつれてますます下手になっていき,トイレ掃除や夕食,朝食の用意をいつしか私がやるようになっていました。同じ物をいくつも買いだめしたり,料理を焦がしたり,少し前に話した内容をきれいさっぱり忘れてしまったりして,この人は職場でまともに仕事ができているだろうかと常々疑問に思っていましたが,妻がアルツハイマー病であると聞いて妙に合点がいったものでした。若年性認知症は,「早期発見」,「早期絶望」と言われますが,早期絶望したのは私の方でした。将来の介護のこと,まだ学生の子供達のことなどを考えると,何もかも放棄して一人自分だけこの世からいなくなりたい気分でした。その後,『あきらめ』,『理解』,『受容』へと進化して,今私は落ち着いています。

 診断が出る前の数年間は,朝私が「おはよう」と声を掛けても,夜「おかえり」と声を掛けてもほとんど返事がなく,それほどまでに私は妻に嫌われているのかと砂を噛むような日々が続いていました。喧嘩もしょっちゅうでした。ところが診断が出てそれが私にばれてからの妻は妙に明るく,まるで人が変わったように愛想がよくなりました。この上機嫌は今でも続いています。喧嘩ばかりしている私たち夫婦を見かねて,きっとお釈迦様がアルツハイマーという病気を妻に授けて夫婦仲良くしなさいと言ってくれたのかもしれません。
 
 現在妻は仕事を病気休職中で,私の通勤途上にある,某デイサービスセンターでボランティアをさせてもらっています。施設の前にはお地蔵さんが一体置かれています。お地蔵さんは本名を地蔵菩薩といい,釈迦如来が入滅した後の世界の苦しみを救ってくださるのだそうです。そのお地蔵さんは赤い帽子と赤い前掛けを身にまとい,おなかの部分には「私はしあわせ」と書いてあります。7月9日にはお地蔵さんの横に置かれた蓮に薄いピンク色の花が咲きました。仏教では泥水の中から生じ清浄な美しい花を咲かせる姿が仏の智慧や慈悲の象徴とされるそうです。ひょっとして私と妻の結婚生活は今が最もしあわせな時なのかもしれません。どうかこの日常生活が少しでも長く続きますように..

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